エアロビクスをはじめ、スポーツインストラクターとして30,000人以上の指導歴を持つ井尻花代(いじり・はなよ)さん。

現在は「サプリメント管理士」の肩書きで、講座活動なども積極的に行っているといいます。

「運動だけではなく、栄養の大切さも伝えられるように心掛けています」

そう語る花代さんの原体験(※)には、防げたかもしれない父親の死が関係しているといいます。

運動と栄養の両面においてプロフェッショナルの知識を持つ花代さん。

今、どうしても伝えたい想いについてお話を伺いました。

(※原体験: その人の思想が固まる前の経験で、以後の思想形成に大きな影響を与えたもの)

中学時代の憧れが今の仕事につながった

── 改めてですが、現在の花代さんのお仕事を教えていただけますか?

花代:フリーランスのスポーツインストラクターをしていますが、現在はリハビリ専門クリニックやNPO法人で、患者さんや障害がある大人や子ども向けにエアロビクス指導をするお仕事が中心です。

運動だけでなく、身体の仕組みや日々の栄養管理に関する指導なども行っており、そちらは個人、法人、行政を問わずに伺ってアドバイスをしています。小学校や中学校、保育園、子育て支援センターなどに出向くことや、高校や専門学校の体育の授業に呼ばれたこともあります。

── 花代さんはどのような経緯でスポーツインストラクターになられたのでしょうか?

花代:中学時代にまで話はさかのぼるのですが、当時は器械体操部に所属していて、その時の顧問の先生がすごい女性だったんです。

3人目のお子さんを産んで、産休明けで職場復帰した先生だったんですが、ポポーンってカッコイイ技をやるんですよ。ロンダートからのバック転、バク宙っていう感じで。30代後半ぐらいの年齢だったと思います。

それが記憶に残っていて、高校の時は「絵本作家」を目指したりもしたんですが、それはあっけなく親や先生に反対されて(笑)。

じゃあ進路をどうしようか? という時に、中学時代のその先生のことを思い出して「バック転のできるカッコイイお母さん」を目指そうと思い、スポーツ関係の専門学校へ進学したのが始まりです。

運動の魅力を実感したできごと

── スポーツや運動の魅力とは何なんでしょうか。

花代:スポーツクラブに就職してすぐの頃の話ですが、最初はまだ「若い」というのと「女性」というのもあって、なかなかお客さんから一人前のインストラクターとしては見られないことが続きました。

ですがある時期を境に、自分の身体をこれまで以上に鍛えるようにしたんです。そしたら私の上半身も逆三角形になっていって…。するとお客さんの反応も変わってきたんですよね。

インストラクターとして、プロとして、アドバイスを求められるようになったんです。その経験が自信になりました。運動やスポーツに一生懸命取り組むことで、自分の評価というか周りの人に与える影響が変わる体験をしました。

花代: ほかにも、スポーツクラブのホノルルマラソンツアーで過去2回途中棄権を経験し、3回目の参加は諦めていたおじいちゃんと一緒に完走したエピソードも忘れられません。

ご本人が不整脈などを抱えていたこともあり、35km 地点あたりで少し苦しそうになると引率していたスタッフにストップをかけられてしまうことがあったんですね。しかも奥さんは過去に2回完走していることもあり、おじいちゃんは自信を失っているようでした。

普段おじいちゃんは私のエアロビクスのレッスンに熱心に参加してくれていたので、当時はまだ同僚だった主人が「君が誘ったら、おじいちゃんホノルルマラソンにチャレンジするんじゃない?」と言ったこともあり、スポーツクラブのツアーとは別で私と主人とで伴走して完走を目指そうという取り組みをしたことがあったんです。そしたら無事に完走できたんですよね。

それからのおじいちゃんは生き生きとするようになって、今度は自分の兄弟をマラソンに誘って、私たちがおじいちゃんと一緒に走った時の様に、途中でストレッチをしたり風景を楽しんだりして完走させるまでになったんです。スポーツが与える影響というものに感動した出来事でした。

── 運動やスポーツによって人生が変わっていく人たちとのかかわりが、花代さんに今の仕事を続けさせたんですね。

花代:時期はさまざまですが、がんの末期患者の方から「レッスンで励まされた」というお手紙をもらったこともあります。

私が子育ての初期には、主人の仕事の関係で知り合いが誰もいないところに住んでいたこともありまして。

その頃に孤独な育児をしていたのですが、子どもが1歳ぐらいの時にベビースイミングへ通わせたことをキッカケにママ友ができたこともあります。

そこからママ友と話が盛り上がり、私のエアロビクスの指導経験を活かしてサークルの立ち上げなどもしました。30~40人が在籍するぐらいまで大きくなり、その中の一部の方たちとは今でも年賀状のやりとりをしています。

現在は主に契約先でのエアロビクス指導をしていますが、本当に大人から子ども、子連れママに健康な人、患者さんまで、広く伝えられるものがある点もこの仕事の魅力だと思っています。

運動指導「だけ」の限界

── そんな経験をしてきた花代さんが、なぜ今は「栄養指導」も合わせて行うようになったのでしょうか?

花代:大きなキッカケがあったというよりも、運動指導をする中では必然なのかなと思います。運動と食事はセットなんですよね。

激しい運動ばかりをしていては、活性酸素は出るし、ケガだってします。やせるための運動をする時にも栄養がしっかり摂れていなければ引き締まった身体にはなりません。

私たちは植物ではなく「動物」なので、運いているのが本来の姿だと思うのですが、健康状態などの理由でそうもいっていられない方もいらっしゃいます。でも、人の身体って口から入る物で出来ているんですよね。

そして、栄養をしっかり摂取していればメンタル面での底上げもできます。例えば、マイナス思考になりやすい人は「たんぱく質」が足りない可能性が高いです。

「幸せホルモン」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、そのホルモンとは「セロトニン」や「オキシトシン」と呼ばれるもので、それを作るためには「たんぱく質」が必要です。でもそういうのを知らないと意識して適切に摂取できないですよね。

コラーゲンだって外から摂取しなくても、必要な材料があれば人間の身体の中で作ることができます。私たちは豚肉や鶏肉を食べても豚や鶏にならないように、原料が豚のプラセンタでは一時的に効果があるように感じても持続しないとか、学ぼうとしなければわからないことが多いと思います。

── 栄養って奥が深いんですね!

花代:栄養の知識がないと、体質改善やダイエット、筋トレをするにしても、とにかく効率が悪いんですよ。

特に母親の場合は、妊娠前後の身体づくりであったり、免疫力の上げ方などを知っていたら家庭内での貢献度はすごいと思いますよ。インフルエンザに毎年かかってしまう方は、身体の仕組みや栄養の勉強をするといいですよね。

父親の死と栄養のかかわり

花代:ただ、私がこうして「栄養」を以前にも増して広く伝えようと思うようになったのは、若くして癌で亡くなった2人の親友や父親の突然の死が深くかかわっています。

親友から癌だと聞いた時、私は何もしてあげることが出来なかったんです。今さら運動をしても病気が治る訳でもなく…。

父親は若い頃から運動もせず、タバコやお酒が大好きだったんですが、ある時仕事でお金のトラブルに巻き込まれて精神的にもかなり追い込まれてしまったんです。

その後、精神が参ってしまう前に身体が不調を起こして「検査入院」することになったんですね。そしたら、そのまま逝ってしまったんですよ…。

司法解剖はしていないので確かな原因はわからないままなんですが、もしかしたらあの日、検査入院のために食事を抜いたことがキッカケだったんじゃないかって悔やむことがあるんです。

人って、どうしても踏み入れてはいけない栄養の最低ラインがあるんですが、普段からきちんと食事を摂らずにお酒ばかりだったので、もしかしたら食事を抜いたことでそのラインを下回ってしまったんじゃないかって…。

本当のところはわからないんですが、もしあのとき自分に「栄養の知識」があればって悔やむことがあるんです。

こんな想いを私の周りの人達にはして欲しくないので「栄養の大切さ」のことは伝えていきたいんです。

フリーランスにこだわる理由

── 花代さんは正社員としてのオファーもあったそうですが、なぜフリーランスにこだわっているのでしょうか。

花代:私がいま主に関わらせていただいているのはリハビリ専門クリニックでのエアロビクス指導ですが、仮にそこへ就職してしまうとそれ以外の方々、──例えば子育て中のママとか、小学校や保育園の子供、学生、高齢の方や病気で苦労されている方々との出会いが減り、伝える機会を制限してしまうと考えているからです。

それともうひとつ、行政の力を借りての活動だとどうしても単発指導に偏ってしまうところも解消していきたいことのひとつです。

例えば、パーソナルトレーナーとして個人個人にかかわれる仕組みを作れれば、もっと短いスパンで身体の改善が期待できます。

そういったマンツーマン指導も今後はやっていこうと思ってます。

── 花代さんが皆さんに伝えたいメッセージはございますでしょうか。

花代:私の感覚だと、今は世の中的に他人よりも「自分」に意識が向いている時期なのかなと思っています。

自分の気持ちや感情に向き合うとか、自分が本当にやりたいことは何なのかを追及する、というように。そこで私が思うのは、「そろそろ自分の身体にも意識を向けてみませんか?」ということですね。

これからの時代、人間の寿命が100歳になるといわれていますが、では健康寿命も100歳かというとそうではない。だけど、しっかり「運動と栄養」の知識を得て、継続的に取り組めれば、生涯この身体に健康なまま乗り続けられるわけです。

気持ちやメンタルにしても、体力があれば最後まで落ち切らずに済むんですよね。多くの人はそういうことをあまり知りません。

それを知ったとしても、人はどうしても決まった期間にだけ集中して運動に取り組んでしまい、途中で中断させてしまうことも多々あります。学生の頃に運動部でガッツリ運動したけれど、社会人になったらすっかり運動不足になるとか、よくありますよね。

そうではなく大切なのは、細々とでもいいから続けられるということなんです。

身体のことや運動、栄養のことを知っていたら、続けようという「意志」につながると思うんです。知らないから途中で止めたり、またいきなり始めたりするのではという仮説です。

そういった意識を根底から変えらえるような働きかけをしていきたいと思っていますし、いま私が伝えたいメッセージでもあります。

特に最近だと「女性向け」「ママ向け」に力を入れています。

精神面も身体面も、トータルでママをプロデュースして、それによって家族も元気になれるような世界。まずはそこからのスタートです。

私も以前ほどは運動していませんが、栄養の知識があるので極端に太ったりもしません。そういうのもまた魅力的だと思いませんか?(笑)